やってきた、あの音だ。
背後でドアがいきなり、開いた。
「ハー?」
女の声。
次に、
「ワー!」
「ワー!ワー!」
「ワー!、ワー!、ワー!」
芳恵の叫びだった。
 体を離して振り向くと、芳恵が仁王立ちで立ち、智樹を睨みつけている。次男を背負い、長男の手を握っている。
 この光景は?
 「ワー!ワー!ワー!」
 芳恵はあらん限りの力を出して、叫びつづけた。
 その声の向かう先、壁と天井の境、そこでめくれかけていた壁紙が火を見せていた。そばをはっていた電線から漏電し、燃えはじめたのだ。
 芳恵は金縛りにあったように立ちすくみ、叫んだ。
 「あー、火が!」
 美咲はそのほうを見て叫んだ。
同時に、壁紙の燃え殻が灯油の入ったポリ容器の口の中に落ちた。そのまま燃え上がり、床一面に火が回った。
 智樹はあたりを見回して竹林が燃えてるのを見た。
 あの時、残り火を放置して帰宅したことが何度かあった、それが後悔された。
 芳恵の背負った次男が狂ったように泣き始め、長男は母親に握られた手をはなそうともがいていた。
 智樹はケイタイを取り、119番に電話を入れ、家事の発生場所と世帯主の名前を告げた。
 「美咲!逃げろ!消火は無理だ」
 智樹は叫んだ。
 美咲はソファの上のハンドバックを取ると、芳恵のそばをかすめて玄関に行き、外に消えた。
智樹は芳恵に駆け寄り、彼女の腹部に右肩を押し付けて、担いだ。
 そのまま長男の手を握ると、食堂間から裏口の車庫に出た。
 車の後部席に芳恵と次男を押し込み、助手席に長男を乗せると、発進させた。クランクションを鳴らしつづけ、運転席の窓から「火事だあ!」と叫びながら、彼の家のまわりを走りつづけた。 
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