実は彼女が叫んだ時、RV車の傍をわたしの車は通り過ぎていた。だからブレーキを掛けても意味が無く、ゆっくり停まれば良かったのだ。そうすれば事故にはなっていない。だが、わたしは彼女の叫びに驚いてしまったのだ。
これを話すと不利になる。
「当然相手の車がマンション駐車場の出入り口で一時停止をすべきだったのですよ。一時停止をしていれば彼女は叫ばなかったし、事故は起こらなかった。RV車を調べましたが、マンションの居住者の中にそれらしき車の持ち主はいませんし、出入りしている者の中にもいませんでした。まだ捜査を続行していますが。偶然の出来事なのか意図があったのか、何か思い当たる節はありますか?」
担当者はわたしの目の動きを見ていた。
「ありません」
わたしは有利な返事を選んだ。
「とりあえず、検察庁には書類を送ります」
彼は調書に押印を求め、わたしは従った。
「三階の突き当たり、右の部屋に、あなたと話しをしたいという人が待っていますので、行ってください。ご苦労様でした」
彼は言った。
わたしはエレベーターで三階に上り、廊下を歩いた。
不安が募った。誰が待っているか、すでに見えない糸で結ばれていたが、具体的には意識の中に現れ出てはいなかった。
ドアをノックすると返事が返ってきた。
中村ともう一人の男が笑顔を見せた。
わたしに椅子に坐るように促した。
わたしは彼に察しをつけていた、だから彼がいたのだ、穂高であればそのように答える。
「災難でしたね」
中村は鷹揚に構えていた。
「事故のことは心配しなくていい。検察は不起訴処分にしますよ。あなたには悪意もなければ過失もない」
彼は相変わらず、柔和な表情をしていて、公安警察を三十年もしてきた人間には見えない。ただ、わたしは表面上柔和で冷静な人間がいかに強かで狡いかよく知っていた。
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