「パンティを買うとき、恥ずかしかったろう?御免ね」

ベッドの中でわたしを見上げて、言った。
わたしは曖昧に笑った。
「この次ぎ、また、会えるよね?」
「うん」と元気づける意味で答えた。
わたしには発作が出る原因がわからなかったが、怖いことだということはわかった。いつどこでどんな時に出るかわからない症状がもし治らないとしたら、外に出ることが出来なくなり、(生ける屍)になってしまう。いや、だいじょうぶだ。今の医学で不治の病はほんの僅かにすぎないし、この病院はその方面の専門である。
週に一度は見舞いに行った。
彼女の脳に異常は発見できず、むち打ち症以外の診断はでなかった。これはつまり、発作の原因がわからない、治るかどうかわからない、ということにわたしも彼女も気づいていくことになった。
院長は(私に任せておきなさい)と彼女に言った。三階建ての立派な建物でベッド数は五十もあるのに、入院患者は五、六名だった。痴呆症老人や風邪を引いた者、保険料稼ぎの運転手などで、一度入院してもすぐに転院する者が多く、俗に言う藪医者であることがわかってきた。医者であれば当然その発作の症例を探し、治療方法を考えるはずだ。わたしは担当医である院長に会った。彼は彼女の脳の写真を見せて異常のないことを示し、〔症例はありますが、これは時間がかかります、それだけは覚悟してください。治ります〕と言った。
 わたしと彼女は医者を信じるしかなかった。

その日、わたしは警察署の事故係に出頭した。事故係の担当者は事故現場の検証をした男で、顔を覚えていた。彼は記録簿をみながら事故の状況を追っていき、わたしに確認させた。
「あなたが左折して事故現場まで走ったコースには一時停止の場所は一つもなかった。徐行のスピードで走っていたということですね?」
「はい」
「香織さんが叫んだのでブレーキを掛けたのですね?」
「はい」

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