わたしは早めに着いた。店の中に入って、おにぎりとコーラを二人分買い、運転席で待っていた。
香織との関係は自然に解消することを望み、その方が確実であり、後腐れがない、と考えていたわたしは優柔不断と指摘されても仕方ないだろう。複雑なことが絡み過ぎているので一本一本の糸を切っていくより、大本を絶ちきった方が早い事はわかっているが、わたしに出来るだろうか、と迷ってもいた。
時間を確認しなかったが、待っている時間が長く感じられた。時空が一つになっていた。マンネリ化していて、性欲の兆しもなかった。同じ経緯を辿り、終わる、それだけだった。
香織の姿が右手に見えた。焦げ茶の革のジャケットにジーパンをはいている。目の前を通り過ぎ、わたしの顔を見て戻ってきた。
「車の色を変えたんね?」
スライド・ドアを開けると、いつものように後部席に乗り込んだ。
「なんで?」
「白い車に見えたけ、違う人かと思った。この前も車を間違えて乗ろうとしてしもうたんよ」
白い車、と言う言葉が気になったが、車を間違えて乗ろうとした、と言う出来事の方に意識の矛先が向かっていた。男と待ち合わせをしていてのことに違いない。誰の車と?と訊くのは野暮臭く思えて、しなかった。もとより、金で誰とでも寝る女と言うことが前提であったはずだ。
「この車は黒やけ、白に見えたなんておかしな話しやね、どうかしとるんやない?」
「私はとんちんかんなところがあってまったく正反対に見えたり、受け取ったりすることがあるんよ」
後部席の真ん中に坐り、身を乗り出して話しかけてきた。
「白と黒は裏表で本当は同じものかもしれん」
あたりに不審な人影や車がないか見回しながら、発進した。
待ち合わせ場所は時々変えたが、ホテルに向かうコースははっきり覚えていた。彼女と会い始めて十ヶ月が経っていて、十日か二週間に一度、会った。仕事の休みの日を当て、余裕を持たせていた。石川にいわせると、働いた後のご褒美の日、だった。
車は本通りから脇道に入った。右手にカラオケ屋、柵のない駐車場、と続く一本道だった。少しスピードを出したが、時速四十キロもいっていない。
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