彼を見かける事があるとその場を離れた。

 次ぎにケイタイに無言電話が入るようになった。着信拒否にしたが、非通知で履歴に残っている。三、四分間隔で二十件近く、公衆電話からのも混じり、夕方に集中していた。石川の顔が思い浮かんだ。独り、部屋で、怨念を込めてケイタイにうち続けている。金が無くてどこにも行けず、わたしをわら人形に見立て、釘を打っている。それはわたしの姿でもあった。怖くなった。わたしはケイタイの販売店に行って、非通知の履歴だけ残らないようにしてもらった。
 香織の自宅の電話に同じく、無言がはいるようになった。夜の十時過ぎ、際限なく。彼女もわたし習って、着信を拒否にし、履歴も残らないようにしたが、次ぎの攻撃を恐れていた。
 香織との出会いの日だった。ホテルで行為が終わった後、穂高のパソコンのパスワードの事を持ち出し、はっきりさせようと考えていた。彼女と手を切らないと何が起こるのかわからなかった。それにホテルで会っているとき、わたしには彼女への殺意が時々起こっていた。
 ホテルの部屋に入ったある時、目の前のテレビの画面を見て、
 (私が傍におっても、アダルト・ビデオで興奮するんやけ)
 とつぶやき、思い出したのだろう、その男の存在と彼との入室を暗に示した。
 (部屋に行ったら、布団は汚れ放題、台所にはゴキブリが這い回りよったけ、ホウ酸団子を買うてきて撒いてやったら、次ぎの日はおらんごとなった)
 ある時、行為が終わった後、彼女はバスからいつまでも出てこなかった。覗いてみると、
 屈んで陰毛を剃っていた。陰部はいつもきれいに剃られ、女児のもののように白くきれいだった。
(水着を着るときに毛がはみ出るのが嫌やけ)と言いながら、(私のオマンコを眺めながら、オナニーだけして、逝く人がおる)とも言った。
石川も漏らしたように女の性の傲慢さに対するわたしの嫉妬心だった。女はいつでも何人の男でも受け入れることができる、男がとうてい太刀打ちできない強さ、それが鼻につく。穂高が女に抱く不信感もそれが一因になっているに違いない。わたしにとって女は永遠の対立者であると同時に結合の対象であった。
 待ち合わせの場所を大規模スーパーの駐車場に指定した。二月の昼下がり、薄日の射す日だった。大安売りの日で、駐車場は込んでいた。

前
銀ラメのハイヒール p92
カテゴリートップ
銀ラメのハイヒール
次
銀ラメのハイヒール p94