飛松はどこかのんびりした男で、石川がいつでも入って自由に使えるように、部屋に鍵を掛けていなかった。飛松は無届けの金貸しをしていたので警察に被害届けを出すわけにいかず、、石川の友達だから、事件にはしたくなかった。
「私と石川さんはもうそんな関係やないし、もともとそんな関係やないんよ。石川さんを問い詰めて、質屋を調べてごらん、」ち言うてやった。
彼女は言い、石川には盗癖があって、以前二人でホテルに入り、帰ってハンド・バックの中を見ると五万円が消えていた事を思い出した、と付け加えた。
「青浜団地におるのが一番目のお母さんなんよ。若い頃から保険のセールスをして私達を育ててくれたけど、胃ガンにかかって胃を三分のに切りとっとるんよ。血糖値がいつもさがるんよ、いつも糖分を補給しとかんとね。下がり過ぎると死んでしまうんよ、胃を切った後遺症らしいね。一生懸命頑張ったのにあんな目にあうんやったら馬鹿らしいち思うてね。私はその逆の生き方をすることにしたんよ。若いうちにやりたいことをする」
わたしと香織はホテルの部屋にいた。セックスが終わり、彼女はソフアに仰向けに横たわり、腰掛けたわたしの膝を枕にしていた。そんな姿勢は初めてで、いつもは一定の距離を保っていた。
「あなただけが私をじゅうぶん満足させてくれる」
彼女は言った。
わたし返答に困った。
(俺だけの女になるか?)という言葉をわたしの舌は含んでいたが、いつまでも動かなかった。その代わり、(金で誰とでも寝る女だ)という返事が返ってきた。でも自分だけのものにはしたかった。でも、(金で誰とでも寝る女)は自分だけのものにはなりえない。自分だけのものにするためには同棲するか結婚するかして養うのが確実な方法だろうが、俺にはまだツマがいる。ツマとの間はまだ決着がついていない。それに香織は俺だけで本当に満足するだろうか?
「俺は高校時代まで母親に勉強ばかりさせられた。大学まで行ったが、今はこんな仕事をしとる。もう一度、産まれ変わることが出来たら、あんたみたいに自由奔放に生きるやろう、今俺は自分の青春を取り戻そうとしよるんやろうか?いつまでもこの歳になっても」
わたしは薄笑いをした。
「やりたいことをやってしもうたら、いつ死んでも良いわ」
「やってしまう、ってことはありえるだろうか?」
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