ぶされ、悲鳴をあげていた。
わたしも目を向け、笑った。
「どこに連れて行かれるんやろう?」
彼女は訊いてきた。
「わかってるやん」
「どこよ?」
「とさつじょうたい」
「エー、殺されるんね。外に出られて喜びよるんかと思うた」
「鈍感やね。あんたの胃袋に入るんかもしれんよ」
豚にとっての悲劇は人間にとっての快楽。悲劇と快楽はどちらも真実で、重なりあっている。コインの裏と表。交わることのない平行宇宙、穂高の言うパラレル・ワールド。
ワタシ・カオリはどこへ行こうとしていたのだろうか?死が終わりでないとしたら、終わりのない旅だったかもしれない。
香織は松任谷由実の「時は回る」を歌い始めた。
「これは私が小さい頃、一番目のお母さんがよく歌ってたんよ」
北九州に近づくと、景色の中に工場の建物が入り込んできた。道路沿いの商店街は寂れていて、貸店舗や移転の張り紙が目についた。
香織を助手席に移動させた。並んで坐るのは初めてだった。彼女は上半身をわたしに凭せかけてきた。
通りの路上で、老人が屈んで立っていた。排水溝の蓋の網目に向かって口から黄色い液体を吐瀉していた。暑さにやられたのだろう。
門司に着き、波止場に車を停めた。白い客船と海を車の中から眺めた。
香織と二人で遠い世界へ行こう、と言う夢想が湧き、消えた。
レトロ街を二人で歩いた。体を寄せ合い、時には手をつないだ。
携帯電話のストラップを買い、お互いにプレゼントした。
ホテルに入り、セックスをした。疲れもあって、あまり燃え上がらなかったが、二人だけの世界が始まる日だった。
帰り支度を終えて、二人はソフアーに腰を下ろした。
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