「この家の電力は地下室に備えられた重力発電機から出ています。地下室は私以外誰もはいれません。超音波の電源は、手動で切る場合、立花さん」

 声はビニール袋から出ていたのだ。
 「食堂間にある、香織の写真、その裏の壁のスイッチを押すのです。中村さん、あなたの知っているとおり私の体は玄関傍の部屋にいます。二日後に魂が戻る予定です。病院に入れるのは自由ですが、医者は症状を何と分析するでしょうか、症例もないはずです」
 声は続いた。
 私達はビニール袋を見ていた。スーパーの名前が大きく入っているありきたりの袋である。
ユラリと一揺れした。
 「こんな場合はともかく病院へ搬送するしかありません」
 中村はビニール袋に言った。
 それからは手順通りに進んだ。
 わたしが香織の写真の裏に電源スイッチを発見し、切った。
 穂高の体は布団の中に寝ていた。口を半ば開け、涎を垂らし、初めて見る痴呆的表情だった。タンカを呼んで、救急車に運んだ。
 わたしは、中村の車に同乗した。車が発進するとき、ビニール袋が流れて這い、側溝の中に入るのを見た。
 「思想・信条の自由があるので何とも言えないけど、穂高さんに、日本を攻撃させることだけは思い留まらせて欲しいのですよ。あの人とは学生運動の時からの付き合いですけどね」
 中村は言った。
 わたし黙っていた。下手に喋るとやぶ蛇になるし、誤解される事の方が多い。

  第十二章

 石川の警戒心は解けたと判断し、香織と門司までドライブをすることになった。青浜の駐車場で午後一時に会う約束をした。
 車をトイレの前の駐車場に乗り入れた。バックをして二番目のラインの中に入れようとした時、初老の男の姿が目に入った。長身でがっちりした体でトイレの前に立っていた。
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