「三十年間もつけ回してるんですか?」

 「仕事ですからね。日本赤軍と関係もある」
 「あなたを尊敬します」
 わたしは言った。
 「あなたも彼と関わらない方が良いですよ。事故に遭いますよ」
 運転席の男が言った。
 (事故に遭いますよ)
 わたしはこの言葉が何を意味していたのか、今はわかる。すでに計画されていたのだ。テープに取っておくべきだったと悔やまれる。
 穂高からのメールが鳴った。
 同時に中村の携帯電話も鳴っていた。ワンキリで着信音も同じである。
 いや、錯覚だったのか?同時に鳴れば聞こえる筈がない。
 怪訝な思いは沈黙の中に想像を駆けめぐらせた。
 中村は携帯電話を留守電に切り換えた。
 わたしも切り換え、心の中で穂高に尋ねた。受信・発信を同じくし、傍受が出来る携帯電話を作ることは出来るのか?
 出来る、出来る。
 警察が企業に捜査の協力を依頼すれば簡単に出来る。だから、私達の話しやメールの内容はすべて読まれていたのだ。俺もうかつだったが、騒乱罪という犯罪の構成要件はまだ成立していない。捜査令状も逮捕令状も発行できない。早めに、芽を摘まれるということかな。
 自問自答、いや、波動を共振させて彼と会話をしていた。(騒乱罪)や(構成要件)などという言葉をわたしが知っているはずもない。
 その携帯電話は受信のみで、発信は出来ない。使ってもいない電話代がもう一人にも請求されるという問題もあるはずである。
 車は穂高の家の前、彼の白い車と向き合って停まった。
 彼との共振は中断した。
 三人は車から降り、家の前に立った。
 「救急車も捜査車両も離れた所に控えています。穂高さんの寝室は玄関の傍にありますね」

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