わたしは声を出していた。
「人間が自然の一部に還るのです。人間の原点に立ち返るのです。自分の身は自分で守り、自分たちの国は自分たちで守り、まともな人間が統治する国にするのです。詐欺師達に支配されるのはもううんざりだ」
わたしは自分も一度崩壊しなければ再生出来ない、と考えた。香織やツマとの関係をどうするのか?こんな仕事をこのまま続けていくつもりなのか?
先ほどから、公園の中をウオーキングしている男がいた。運動帽を被り、両腕を構えて交互に振り、目前を無言で何度も通り過ぎる。
定年退職した暇人だろうと考え、気にも掛けていなかった。
男はわたしの隣に離れて坐った。タオルで顔の汗を拭き始めた。
「先ほど、セミの死骸を踏んづけてしまいました。あのうるさいセミたちも一ヶ月後には消えてしまうのですね」
呟いた。
中村の顔だった。
「穂高さんの家まで一緒に行ってくれませんか?」
わたしは驚き、言葉が出なかった。
「友達でしょう?」
「そうですが」
「彼は眠ったまま、二日間も起き上がらない」
「なぜ、知っているのですか?」
「穂高さんの近所の主婦から警察に電話がありました。掃除をしようとしてうっかり電気コードを抜いてしまったらパソコンのインターネットが繋がらなくなってしまった。株取引の大事な時で、穂高に電話をしたり、メールを送ったりするが通じず、返事も来ない。白い車は二日間も停まったままだ。家を空けるときは隣家にきちんと連絡する人だから、おかしいと」
彼は言った。
穂高はパソコンのマータイさんを自称し、故障したパソコンをきれいに修理し、知人に譲っては指導もしていた。家電製品の中でパソコンは欠陥商品であり、アフター・サービスの難しいそれを売りつけるメーカーや販売店に腹を立てていた。買ってしまった客の多くは放置している実態も知っていた。
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