石川は受け取り、わたしを部屋へ誘った。

飛松が生活保護を貰いながら稼いでいることに腹が立つと小声で言い、「見かけは荒いが気持ちのすっきりした男やけどな」と付け加えた。
コーラを出し、世間話を二、三交えると、言葉が絶えた。
二人は、以前の仲では無くなっていた。
わたしは領収書の束を出し、石川の分を探し出した。暗に新聞代を請求をしたのだが、石川は無言で拒否した。
キュウリやナスの出来具合を見てくれ、という言葉にわたしは立ち上がり、部屋を出た。
菜園を見、それらの成長を褒めると、アパートを後にした。
彼はわたしが香織と会っていないことを表情で確認し、わたしは確認させた。それだけの用だったのだろう。
次の集金先に寄って、領収書を切るとき、ポケットの中に老眼鏡が無いことに気づいた。バイクで石川の部屋に走った。
部屋をノックした。
自分の名前を名乗って開けると、三人の男達が座卓を囲んでいた。彼等は怪訝な表情で見上げ、わたしは侵入者の立場を実感させられた。
石川、飛松はサザエを食べながらビールを飲んでいた。独りの男だけは顔を伏せている。禿げた額、その下の表情は隠れている。
「老眼鏡、忘れとったでしょう。商売道具ですけ」
わたし言った。
「これやろう、誰んとかと思いよった」
わたしは石川が老眼鏡を手に取って立ち上がる前に部屋に上がり込み、顔を伏せた男を見据えた。
「中村さんやないですか。何でまたこんなところに?」
わたしは冷やかし笑いを言葉に混じえた。
「いや、一緒に野菜作りをしよるんよ」
石川は老眼鏡をわたしに渡しながら言った。
中村は顔を伏せたまま頷いた。
それからの三人の強い沈黙はわたしを部屋の外に出そうとするものだった。
(公安警察と暴力団関係者。・・捜査上の関係か?お互いに利用しあう関係か?菜園作りの
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