一週間が過ぎた。
二週間が過ぎた。
ある日、青浜団地に入った。
最後の棟に向かおうと、バイクをゆっくり走らせていた。紺色の軽自動車に目が向いた。駐車場に停まっていた。ナンバーをみると、1909だった。香織の車だった。
見過ごすつもりで走っていると、近くの砂場に若い女が坐っていた。金色に染めた髪をリボン結びにしている。幼児を両手に抱いて、高く上げたり、下げたりしてあやしている。彼女は笑い、天然パーマの髪が揺れている。
傍に中村が立っていた。笑って見下ろしている。
強いショックを受け、バイクを離れた所に停めた。その様子を見ながら、考えた。一ヶ月後に彼女の部屋に集金に行かねばならない。集金仲間に頼んで代わりに行って貰うことも出来るが。
その夜、彼女に電話を入れた。
「近所の子供の面倒をみよったんよ。私のこと、つけまわさんとよ。私には子供も旦那もおらん」
「男はおるんやろ?石川さんはあんたの男が怒っとるち言いよった。傍に立ってた男は誰?」
「男がおったら、他の男とエッチをしたりせん。あんたの奥さんが怒りよるんやろう?私と会いよることで。あんたの奥さんがあわさんでくれって石川さんにいうたんやろう。そばの男なんて知らん」
「俺はツマにあんたのことは話しとらんし、知らんはずよ」
そのやり取りで石川が嘘をつき、二人を離そうとしたことが分かった。二時間余りも、二人の心の中やこれまでの疑問点や石川の虚言について話した。縺れていた糸がほどけ、安心した。
だが、傍に立ってた男は中村ではなかったか?彼は公安警察である。(しらん)とはどういうことか?
「この前の言葉のやり取りであんたの方からそのうち電話がかかってくると思いよったけど、その通りになった。掛けてくれて良かった」
電話を切る際に彼女は言った。
わたしの心が揺れるほど、彼女は揺れていなかった。そして、わたしも彼女に惚れている
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