「実はなあ、香織とはもう会わんのってくれんな」

突然の否定に、絶句した。
その日、彼女と会う約束をし、石川も了解していた。
(このままあんたのアパートを訪れて話しをする)、と言ってわたしは電話を切った。
十分後、彼の部屋で、二人は向き合っていた。
「あんたは香織に深入りしすぎとる」
「石川さんの了解はきちんととっとるやないですか」
「それはそうやけど、もう会わんほうがいい。彼女の男が、腹を立て始めよるんや」
「男が?」
「あんまり訊きなんな。ともかく会わんのってくれ」
「そしたら、この場で彼女と話しをさせてください」
(あんたはわたしと会うように強制したやないか)
わたしは怒りを滲ませながら携帯電話を出して、番号のボタンを押した。
「本当はケイタイの番号も教え合うたらいかんとよ」
石川は呟いた。
彼女が電話に出たので、状況を説明した。
「面倒ごとが起こりそうやけ、あんたと会わんことにした」
彼女は言った。
意外に、淡泊な返事だった。
表情が見えるわけではないが。
「せっかく約束しとったのに・・・」
わたしは香織と石川の二人に裏切られた気持ちになり、言葉が消えた。
悲しくなった。
自分の気持ちを二人に知られたくはなかった。
「わかりました」
石川に言った。
「勝手に会いよったら、暴力団が来るけな。どげなっても知らんばい」
別れ際に彼は追い打ちをかけた。
わたしはそのまま、仕事に向かった。
胃の痛みと鬱状態は続いた。

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