「どうしよる?毎日、暑いけ、バイクで回ると、きつかろう?」

「うん」
わたしは答え、黙り込んだ。
「あんたの大きいチンポが欲しい。こう言えばいいんやろう?」
彼女のくすくす笑いが伝わってきた。
大胆な言葉に戸惑ってしまった。
夜の熱気が官能を帯び、体が火照ってきた。田圃と原っぱが周りに広がり、わたしはその中に浸っていた。
笑いで返した。
「あんたに会いたい」
「俺も」
日にちと時間を決め、石川の了解を得ることにした。


後編

第十章

夕立が上がるのを待って、仕事に出た。
バイクは城山峠に、近づいていた。前方から陽光が射し、照り返された路面が粗い肌を剥きだし、頭上で木々の葉が垂れて、輝きを放っていた。バイクは水飛沫を上げ、走った。
左手のガード・レールにカラスが止まっているのが見えた。陽光を浴びて、黒い艶光りを放っている。三、四羽並んでいるが、それぞれが前に屈んで、飛び立つ体勢だった。右手の対向車線では、舞い上がったカラスが大きく翼を広げ、降下していた。ひき殺された動物の死骸、その内蔵を食いちぎっていた。トンネルから車が来ると、カラスは飛び上がった。車が通り過ぎると、次ぎのカラスが襲っていった。一羽一羽が確実な動作を繰り返し、共同作業をしているのだ。死骸はピンク色の腸を見せていた。それはおぞましさから、美的な印象に変わった。
携帯電話が鳴ったので、バイクを歩道に乗り上げて、止めた。
石川の声だった。

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