猫の頭を撫でながら、落ち着こうとした。
おまえの目的は何か?誰か知り合いでも探しているのか?
心の中できいてみたが、猫は撫でるにまかせて次の部屋を見ていた。
五十六軒目。
焦っていたのか、チャイムを三回、押してしまった。
いきなりドアが開き、男が顔を出した。
わたしは用件を口早に言った。
「赤ん坊がせっかく眠り始めたのに起こしやがったなあ!」
「すみません」
「元通りに眠らせろ!三回もチャイムを押しやがって!」
「それは・・・」
「どうしてくれるんか!眠らせきったら、契約してやる」
彼はわたしが返事に困っているのを見て薄笑いをした。
見知らぬ赤ん坊を眠らせるなんて至難の技がいる。それが出来たら契約するなんて?
無理難題というものだ。
すみません、と言って離れた。
九十八軒目。
親子がドアを締めて外出しようとしていたので、声をかけそびれた。
二、三歳の女児が遅れて階段を下りていく。
その様子を眺めながら気分を安らがせた。
女児は振り向き、わたしに、こんにちは、と言った。
わたしも、こんにちは、と応えた。
危なげない歩き方だ。
脚が短いので円を描くようにして降りていく。
「お母さん、あいさつしたね?人におうたらあいさつせないけんとよ」
前を歩く若い母親にしゃべっていた。
母親は無表情で女児の方を振り返り、手を握ろうと、招いた。
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