「その香織は抜け殻なのですから、興味はありません。普通に対応するだけですね」

 「そしたら愛人という意識もないのですね?他の男性と親しくしていても嫉妬も湧かないのですね」
 「そうです」
 「自分の思い通りに造りあげるんだったら、香織でなくてもいいじゃないですか?」
 「それは、でも彼女の属性が基調になっているからね」
 彼の表情は落ち着いたものだった。
 彼の考えと純粋世界のことは理解出来た。が、わたしには彼のような能力はないから現実世界の人間に振り回されるしかない。
「私が今考えているプロジェクトがあります。まだ秘密にしています。人間の爪や頭髪の一部をとって、DNAの鑑定をする。コンピューターで分析して、性格、体質、知能などから将来の病気や人生進路や結婚相手のプログラムを読みとり、外的条件で改造出来るものは改造していく。個人の将来の危機や難題に備える。幸福への道、この業務を商品化する」
 「あなたはでも、そんな世間的な幸福なんて信じていないでしょうが、どこまですすんでいますか?」
 「先ず、私自身をサンプルにして、実験しています。私だって世間的なもの、常識はもっていますからね。DNA占い、と言う商品名、DNA協会という組織を考えています」
 「私も実験してください」
 「いいですよ。日本人全員の情報が取れ、ネット・ワークを造ったとしたら、どうなると思いますか?ヒットラー以上のことが出来ますよ。私は良い意味で言ってるんですよ。当時は授権法といって、一時的に国家が権力を掌握して改革することがありましたけど、そんなことする必要はない、遺伝子のレベルで改造ができますからね」
 「遺伝子操作については国家も敏感になっているし、規制もかけられているでしょう?」
 「だが美容整形みたいに国民が要望したらどうですかね」
 彼との話しは尽きなかった。
 携帯電話にメールが入った。非通知である。
 「穂高とはもう会わない方が良い。彼は三十年前にとんでも無い事件を起こし、追われている身である。そしてまた、何かをしようとしている。あなたは巻き込まれることになる」

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