彼は変に真面目な顔で応えた。
第九章
白の車が家の傍に停まっている時、穂高は在宅している。窓が閉めきられ、厚いカーテンも降りているので家の中はまったく見えないが。
わたしはその車の後ろにバイクを停め、五段ほどの階段を上った。自然に放任された庭や家を見ながら、幽霊屋敷という言葉で彼は比喩したが、わたしは気にしていなかった。
仕事場は二階なので、一階のドアを叩いたり、チャイムを押しても音が伝わらないことは知っていた。プログラミングの仕事を始めたら、二、三日間は仮眠をとるだけで熱中してしまうのが彼の生活のスタイルだった。郵便物や回覧板が郵便受けに貯まっていることもある。
わたしはドアの前に立ち、予約してなかったことを思い出していた。
ノックをしようか、携帯電話で確認を入れようか、と迷っていた。
静かにドアが開き、彼の姿が現れた。
にこやかに笑いかけてきた。
わたしは驚くというより、その時間を約束していたような錯覚に陥った。
「波動が見事に合いましたね。まあ、中にどうぞ」
彼は招き入れた。
「一週間も人の顔を見ませんでした。やっと、私を現象化してくれるんですね」
彼は先に立って食堂間に進み、
「私は自分の波動であなたを共振させ、ここに呼んだ、と言ったら信じますか?」
背中でわたしに言った。
「そして逆に、立花さん、あなたが私を呼んだのかも知れない」
付け加えた。
わたしはすぐには答えられなかったが、後で理解出来た。男女の結びつき、カルトの信者、加害者と被害者、軟禁されていながら脱出しない者、それらはすべてこの状況にあるのだ。磁場に嵌ったように、それはもう物理現象なのだ。
テーブルに向き合うと、コーヒーと手作りのケーキまで、目前に用意されていた。
「わたしは自然な気持ちで来たんですが、誘導されていたんですかね?」
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