(タイム・カプセル)の建物はありきたりの外観だった。西洋の城を模倣した造形、その壁にはミラー・ボールが並んで吊り下げられ、七色に,賑やかに輝いている。  

 「香織、一つ、訊いて良い?」
 部屋の中に入ると、上がり口の板間で向き合った。
 「なに?」
 彼女は平然と目を輝かせた。
 「こんな生き方をしていて怖くない?」
 「今が良ければすべて良いのよ」
 彼女は笑った。えくぼが出来た。
 「あなた、幽体離脱できるようになった?」
 「このまえ、穂高さんに頭のてっぺんと尻にテスターを当ててもらったら、肥えすぎて電気が通りにくい、っていわれた。幽体離脱機の超音波の周波数が難しい、と言っていた。超音波式のゴキブリ撃退機を傍に置いて僕に試してみたが、気分が悪くなったのでやめた」
 「ゴキブリ撃退器?」
 彼女は悲鳴を上げて笑った。
 「ぼく、ゴキブリなの」
 わたしは冗談を言った。
 彼女に背中を向けさせ、黒のドレスのジッパーを降ろしていった。背中から絡んでいった。
 彼女の肢体はわたしの手足、顔・唇の動きに忠実に反応し、わたしの快感と同調していった。私達の左右対称形の快感は波動を迫り合わせて結合し、燃焼を加速していく。演奏を始め、心地よい音色を響かせる。快楽の波を高めたり、低めたり、しながら、目に見えない芸術を造っていく。そうだ、性行為こそ本物の芸術ではないか。
 ベッド・ルームの扉を引くと、頭の大きさほどのミラー・ボールが頭上で煌めいていた。小さな照明が球形の外側を照らし出していた。体半分ほどの鏡が隙間なく張り合わされて球形を造り、夜の宇宙を現していた。
 二人は凭れ合ったまま、ベッドの上に倒れ込んだ。
 「とろけてしまいそう」
 「オマンコとチンポが張り付いてしまって、もう離れない。真空パックの中でくっつきあったみたいに」

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