わたしが車の運転席に戻ると、彼女が駆け寄ってきた。助手席に乗ろうとしたので、後部席を指示した。人に見られるではないか。
「(タイム・カプセル)、知っとる?」
「そこに行くんね?」
「最近出来たホテルで評判になっとる」
「わかった」
わたしはアクセルを踏んだ。
「ちょっと訊くけど、あんた、この前、約束して、来んかったね」
彼女は強い口調で言った。
「何ね?それは」
「もう忘れたんね。いい加減!」
「わからん。説明して!」
「ほら先週、あんたに会いたいち私が石川さんに言いよったら、石川さんが日取りを決めてくれて、石川さんの部屋で待っとたけど、来んかったやないね」
「そんなこと知らん」
「二時間、待っても来んかった。そしたら、門司のパソコン教室で進級試験の立ち会いを急にせないけんようになったけ、来れんち石川さんに電話して来たろう?」
彼女は少し興奮していた。
「そんなこと聞いとらんし、俺はパソコンは下手やけ、人に教えたりしきらん」
パソコンの指導をしているのは穂高であり、彼には石川も香織も合わせてはいない。石川がわたしと穂高を間違えるはずもない。
「石川さんは嘘を言うたんやね」
「しかし、そんな嘘を何でついたんかね?彼があんたに会うのにそんな嘘をつく必要はなかろうも」
「うん」
わたしは考えた。
石川は仮想の舞台を設定したのだ。わたしと会いたいと言う彼女を呼びだして、部屋で二人きりで待ち、下半身の反応を試したのだ。わたしの役割は彼の性欲を嫉妬心によって復活させるというものでもあるのだ。
いや、その話しは本当かも知れないが、穂高と石川はまだ会っていないはずだ。
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