(立花さんは私と交わってしまうのね)
女は言い、香織の声だった。
(穂高さんのパソコンのパスワードがわかるんよね。私はスパイなのよね)
香織は言って、こちらに顔を向けた。
石川が屈んで、穴の中に顔を突っこんでいた。
石川、中村、香織はどんな繋がりなのだろうか?
第八章
「青浜の駐車場で待っとるち言うたろう?」
携帯電話の先で、香織は苛立っていた。
ツマが隣室に居たのでわたしは自分の部屋に戻り、声を潜めた。
二人は待ち合わせ場所を決めかねていた。わたしがある量販店の駐車場を指定すると、その近くで二番目の母親が商売をしているから、自分の車が見られてまずいと言い、わたしは青浜の場所は知っていたが、その駐車場を指示されてもわからなかった。
結局、行ってみればわかるだろうと思って、青浜の駐車場に決めた。
わたしは黒のワゴン車を車庫から出した。乗り心地の良い乗用車に買い換えたいと思うこともあったが、金もないし、ワゴン車は見通しも良く、大きな荷物も載るので、つい十年余りも使ってきた。結果的に良かった。
青浜には広大な航空自衛隊の基地があるので、それを迂回する形で走ることになる。航空自衛隊が来る前は米軍基地があって、バーやスナックなどが英語の看板を出してアメリカの町みたいだったがそれもなくなり、普通の商店街に変わっていた。こんな話しも残っている。戦後、日本人は貧しかった。青浜の米軍基地の中に入って空の薬莢を拾い、売って金に代えようとした。主婦達が不法侵入をして、米軍に撃ち殺された事件である。そんなことを憶えている人も少なくなった。
海岸線をゆっくり走った。駐車場が見つかるはずだった。
(私は石川さんの女やないんよ)
香織が会おうと電話をかけてきた時、わたしは石川に話しを通すべきだと言ったが、彼女は遮った。
(私は誰の女でもないけ、支配されることはないとよ)
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