「似てるけどどこか人工的な感じがする」
「写真は実物の模造だからどうしてもそうなる」
わたしは魅入り、香織と過ごしたベッドの上の鏡面を思い出した。
「私は来るべき戦争と経済崩壊に備えて、避難場所のことを考えています」
彼は話題を変えた。
「どんなふうに?」
「食べ物さえあれば生きていける。原野を買い取って、独身のシニア達が自給自足の集団生活をするのです。気心の知れた仲間達がついの栖を造る。年老いて体が動けなくなったら、お互いに介護しながら、あの世への旅立ちの手助けをする。江戸時代の長屋生活には日本人が失った共同体があったのに、アメリカ帝国主義によって民主主義を臓器移植され、こんな国になってしまった。もういい加減にしろと言いたい。北朝鮮のテポドンが打ち込まれれば日本人は目が覚めるだろう、崩壊すれば手間が省けるというもんですよ。それしか再生の道はない」
「こんな日本はテポドンでも打ち込まれれば目が覚める、と言う話しは集金先のご主人からもでますよ」
「なんだったら、私が金正日になって日本にうちこんでみましょうか?」
「そんなこと、出来るんですか?」
「共振するんですよ。私が金正日に波動を送って共振し、行動を起こさせるんですよ。私だけではない、先ほどの集金先の主人の考えも波動となって送られていくんですよ。人は自分の意志だけで動いているのではない、多くの波動によって動かされるんですよ。殺人者が悪魔に憑かれて殺した、ということがあるでしょう。何をしたのか覚えてないとか言って。あれは霊が乗り移った、あるいは送られてきた波動が共振したということなんですよ。とんでもないことは人一人の力ではなかなかできるものじゃない」
穂高の眼光は怖くなった。
わたしは怖くなった。自分自身の攻撃性をもそこに見たのだ。
わたしは若い頃を思い出した。穂高と同じだった。自分の考えは正しくて世間は間違っていると、考えていた。穂高のように、世間の本音と建前、欺瞞に我慢できなかった。その考えでいけば間違ってる方は破綻しなければならなかった。国家も幸福そうな国民も破綻しなければ、自分の考えが間違っているということになる。それは許せなかった。
穂高の家を出、バイクに股がろうとしたとき、前方に男の後ろ姿があった。追い抜こう
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