「・・既成概念の呪縛から解放された、純粋意識の世界と言って良いでしょうかね。この前、こんなことがありました。朝の五時頃、プログラムが完成して、勃起していた。疲れがどっと来て、グターっとなっていると、尾てい骨のほうからジワジワと冷えてきて、背筋を通り、脳のほうまで進み、頭のてっぺんから意識が抜け出ていった。窓を抜け出して、ある団地の彼女の部屋の中に入っていった」
「そんなことができるんですか?」
「別に不思議なことじゃない。あなただって出来ますよ。意識は波動の固まり、あるいは情報の塊、つまり霊魂なんですよ。この前テレビでアメリカの物理学者もそう言っていましたよ」
「・・それからどうなったんですか」
「どうなったと思いますか?」
「寝ている彼女を襲ったんですか?」
「彼女は目を覚まし、私を懐かしげに見つめました。私は視覚を通さず、意識で直接見ているので、ものすごくリアルで感動的でした。目の視覚は狭いし、邪魔物も入りますからね。彼女の表情そして、ネグリジェから覗いた胸元に私は没頭していました。・・・二人は抱き合いました。体をまさぐり合っているだけで最高の興奮状態に達していきました。ところが私の目の端、と言っても目は自分の部屋に残っているんですけどね、布団の中で何食わぬ顔で眠っている彼女の姿が見えたのです」
穂高は平静に話し続けた。
「わたしは現実世界の体験のほうが良い。直接感じられない世界なんて意味がない。穂高さんは香織を知っていますね?香織は穂高さんの何なんですか?」
わたしはいきなり、攻撃した。
「愛という次元を越えた人と言った方がいいでしょう。」
「愛し合ったのですか?」
「幽体離脱して愛し合いました。立花さんが彼女とセックスをしても喜ぶべき事であれ、嫉妬なんていっさいありません」
「香織があの時に言った彼氏というのは穂高さんだったのですね」
穂高は黙っていた。
「東北にこういう民話がありますよ。あるところにマタギが住んでいて、いつのころからか猟に出る前に身なりをきれいにし、あまつさえ化粧までするようになった。妻が不審に
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