ある時、彼とそんな会話を交え合った。
「今の女はどれもこれも同じヘア・スタイル、服装、言葉遣い、価値観をしていて、魅力がない。まれにいい女に出会うことがあっても、お茶を飲み、食事をし、ホテルに入る。あなたと一緒に生活したいと言って、家に入り込み、御飯を作るようになり、部屋の片付けをし始める」
穂高は笑って、食堂間の隣の部屋に目を向けた。
そこは薄暗く、物が乱雑に詰め込まれている。いや、乱雑にという表現は彼に対して失礼である。彼独自の超現実主義、超合理主義哲学に基づいているのである。発明や発見に対しても意欲が旺盛であり、超音波式発情機のみならず、重力発電機、電池発熱式ライター、まだ秘密にしている機械など彼の創造力は衰えを知らない。
「この部屋を片づけるということは私の精神を踏みにじるに等しい、というよりこんな家に女なんて来ないでしょう。女が来たって、また同じことが始まるかと思うと興味が無くなる」
彼はまた笑った。
「穂高さんには性的興奮というのはないのですか?女が家に入り込む云々より、性欲があればそんな先のことなんて考えない」
わたしには不思議だった。
「データを駆使してプログラムし、予想通りの結果がでたとき、勃起する。戦争中、鉄砲を手にして突撃する兵隊、米軍機に体当たりする零戦の飛行士、あげくは最近の自爆テロリスト、彼等はその時勃起している」
彼は真面目な顔になった。
わたしは自分の方がおかしいのか、と思ったが、それぞれ個性があるのだから、それでよいと考えなおした。ただ、彼が射精をする時、女をイメージしないのかと尋ねると、当然相手は女でなければならない、と答えた。
「やはり、女が必要なのじゃないか」
「それはそうだが、現実世界には探しているんだけどいない。今の私には抽象的世界にしかいない」
「抽象的世界というのはどんな世界?」
「それは言葉では説明できない」
「イメージの世界?バーチャルの世界?」
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