「景品は何にしますか?」
私は声をかけた。
「立花さん、上がって来んね」
奥から母親の声が聞こえ、私は上がっていった。
彼女は布団に伏していたので、わたしは枕元に坐った。
座卓に手札サイズの写真がかけてある。高校生くらいの男で、どこかで見たような顔だった。・・穂高に似ている。
「あなたは元気そうね。羨ましい」
彼女は見上げていった。
わたしは言葉がなかった。
わたしは署名・押印された契約書と引き替えに一万円の米の金券を渡した。
「キヨコ、トラ猫がまた帰ってきたんね?仕方ないね」
母親は言った。
トラ猫は尻尾を垂らして入ってきた。
お礼を言ってわたしは帰ろうとした。
キヨコは玄関間に立ってわたしを見送った。静かなどこか懐かしむような目を向けていた。―香織だった。
しかし、彼女でないことを、願っていた。
第七章
「やっとあなたは自分自身を現象化出来ましたね!」
穂高は家の中からドアを開けて、わたしの目を見ていた。
わたしは穂高によって認識され、自分自身であることが出来たと言うのである。さらに彼は世界を認識することによって世界を造っている神であるとも言う。
(高校時代、ある事でオヤジに反抗したら、オヤジから誰のお陰で飯が食えてるんだ!、って言われたから、誰のお陰で父親でいられるんだ!おれが現象化してやっているからじゃないか、って反論してやったら、こっぴどく殴られました)
(穂高さん、では僕も、あなたや世界を現象化している神なのですね)
(そうです。皆が神なのです。その次元において皆平等なのです)
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