ていた。(新聞屋なんてしつこいけ、好かん。二度とインターホンを押すな、バカ)と叫んだ男の部屋だった。
インターホンの返事はなかった。
玄関のドアは開かなかった。
彼女はいつまでも待っていた。
「顔をもっとカメラに近づけたほうが良いですよ。相手の部屋のモニターにはっきり映るように」
わたしは言った。
彼女は従ったが、ドアは開かない。
わたしは彼女の後ろ姿に見入った。黒のフレア・スカートにデニムのジャケット、茶色の深い帽子で顔を隠している。わたしはツマを現象化していた。
彼女は携帯電話を取りだし、ボタンを押した。
その伏し目顔をわたしは確かめ、「すみませんがもしかしたら」と声をかけてみた。
彼女は携帯電話に気を取られているのか、顔を上げなかった。
相手が電話に出た。
彼女が「開けて、」と言うとドアは開き、彼女は急いで入っていった。
彼女がもしツマであったとしても、彼女があるいはわたしが違うと言えば他人なのだ。
お互いの意識が認め合えば、ツマであり、オットであるのだ。
結局、百八十件の内、応答があったのは四件だった。後はわたしを無視した。わたしが新聞の拡張員だと知っている訳ではなかった。見知らぬ男だという理由だけで。
腹も立たなかった。いつものことだった。
日本人は内部から崩壊し始めている、そして日本という国も、穂高がいうように。虫食いだらけになっていく。最期はどんな姿だろうか。
外圧によってしかこの島国は変わらない。ペリーが来て徳川幕府が崩壊し、アメリカによって軍国主義が崩壊した。次ぎは何の力によって崩壊し、変わるのだろうか?北朝鮮の核攻撃だろうか?
わたしは見込み客を訪問することにした。前回訪問して、約束を取り付けた、あるいは契約の感触のある所である。
青浜団地へバイクを走らせた。一千世帯はある。
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