に出るともっともらしい顔をして立ち振る舞う彼等は、実は利己的で人間嫌いそして人間恐怖症である。

腹立たしさなんて度外視して、機械になるしかない。
一階まで降りて、インターホンの前に立って、同じことを繰り返し始めた。
五十六件目に返事があった。若い女の声だった。
エレベータで上って、部屋の前に立ち、チャイムを押した。
ドアを軽く叩いた。
ドアが開いて、ネグリジェ姿の女が見えた。まだ寒さの残る季節なのでその姿は変に見えた。
わたしは、お世話になっています、と言って笑顔を浮かべ、一万円の米の金券を差し出した。当新聞へのPRをし、購読契約書も差し出した。女は無表情で黙ってその両方を受け取り、ドアを閉めた。ロックする音が聞こえた。嫌な予感がしたが、用心のためのロックだろうと考えた。
十分間待っても、ドアは開かなかった。
ドアを強く叩き、チャイムを押した。
ドアは無言だった。
一万円の金券のことが頭を叩いていた。契約書を書かせ、それから金券を渡すべきだった。焦ってしまった。相手の名前も電話番号もわからない。交番に届けるべきか、店主に相談すべきか。自己負担になるだろう。
その部屋の郵便受けに、返すように書いた紙と封筒を入れておいたがいつまでも返事は来なかった。
再び、一階のインターホンの前に戻った。
同じことを繰り返すのが仕事だった。
背後の自動ドアが開いた。
若い女が花束とビニール袋を膨らませた食料品を持って立っていた。
「どうぞお先に。私は時間がかかりますから」
インターホンを彼女に譲った。
彼女は「すみません」と言ってインターホンの前に立ち、部屋の番号を押し始めた。
指の動きがぎこちなかった。住人ではなく訪問者なのだ。
わたしは操作の仕方を教えながら、彼女が押した部屋の番号と自分のメモの内容を見比べ
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