して霊の世界でセックスしてみない?病みつきになるわよ。現実の方が物足りなくなる」

香織は起き上がった。
ベッドの傍に立った。
わたしの視覚は意外なものを捕らえてフリーズしていた。
彼女の白い裸体、左の肩から臀部の盛り上がりにかけて、紺色の英文がわたしを見ていた。体の三分の一を占める大きさで、書体も洒落ている。
“Only one Iife have to be a happy world!”
「その入れ墨は本物?」
「そうよ」
「どうしたの?」
「リュウジュから、お前は男を惑わす魔性の女だと言われ、私はそうなってやろうと思って、二年前に入れてもらったの」
彼女はこともなげに言った。
「リュウジュ?」(竜樹)
「わたしの男よ」
「男がいるのに他の男とセックスをするの?」
「彼は現実のセックスなんて屁みたいにもんだから、自由にやっていいていうの」
「と言うのは?」
「体外離脱して愛し合うのよ。病みつきになるわよ」
「タイガイリダツ?・・でも本物の入れ墨を入れるなんて覚悟がいったろう?後悔していない?」
「していない。私は思いついたら実行するタイプよ」
「だいたいの意味はわかるけど、正確に日本語に直すと?」
「たった一度の人生を幸福世界に生きよう、と言うことよ」
わたしはその大胆さに驚かされ、自分の昔の若さと、一時重なり合った。
彼女はそのままバス・ルームに向かっていった。
わたしは仰向けに寝たまま、天井に嵌められた鏡を見ていた。肥えた自分の裸体が映し出され、右手を傾げて額の上に載せている。孤独なわたしがわたしを見つめている。人生のワン・カットだった。何十万分の一の、いや無数の光景の中の一つであった。穂高の食堂間に置かれていた写真を思い出した。若い女性の立ち姿だった。黒のぴったりしたドレス
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