占欲や嫉妬心はないのだろうか?穂高は言った。一夫一婦制というのは近代の支配者が支配しやすいように作り上げたもので、個人主義の独占欲の産物である。共同体社会では誰の子かわからないような子供でも皆で育て上げ、面倒をみたと。男女関係にも縛りがなく、一夫多妻・一妻多夫の社会もあったと。そんな社会は嫉妬心はないのだろうか。
「今日はどんなパンティをはいてきたんな?」
石川は言った。
「ひーみーつー」
彼女は答えた。
車は石川の住むアパートに向かっていることがわかった。
アパートに着くと、三人は部屋に上がり込んだ。石川がドアを開けて入り、彼女、そしてわたしと続いた。わたしは狭い靴脱ぎ場で、彼女が銀ラメのハイヒールを脱ぐのを見た。黒のサテンのワンピースがハイヒールの色と質感と反応しあって妖艶な雰囲気を醸し出していた。
三人は小さなテーブルに向き合って、坐った。
石川がコーラをコップに入れて出し、窓を開けた。
コーラをのみながらとりとめのない話しをした後、沈黙が訪れた。
隣に女が坐っている。
わたしは財布の中から二万円を出し、テーブルの上に置いた。
お願いします、と言った。
「うん」
石川は頷いた。
香織は、頂きます、と静かに言って、全額を財布の中に入れた。
石川の取り分はどうなるのか考えたが口には出さなかった。
「ここでしても良いばい、俺は外に出とっけ」
石川は言った。
「こんなとこ嫌!」
香織は首を振った。
「俺の車を貸すけ、ホテルに行ってきない」
石川はキーをわたしに差し出したが、他人の車を運転するのは怖いと答えた。
「そんなら、俺が送っちゃる」
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