に求めてきた。わたしは返事をしなかった。「俺を信用せんとな?」、彼は声を張り上げた。

「よし、会おう!」腹立たしさを交えて頷き、受けて立とうと思った。もちろん女に好奇心はあったが、胡散臭さが付きまとっていた。
 穂高の忠告はすっかり忘れていた。彼の異次元の話しは日常生活の中では陰を失ってしまう。
 車の窓は開けていた。五月の連休の日で、陽光が地上にまんべんなく降り注いでいた。紫外線が強く、火に当てられたみたいに皮膚がチクチクしていた。
 わたしの意識は、流れのお膳立ての中にすっかり入り込んでいた。迷いも不安もなかった。どんな女なのだろうか、自分が良い印象を与える事ができるだろうか、という不安はあったが。
 スーパー・マーケットや自動車販売店やラーメン屋や寿司やなどの町並みには家族連れの姿があった。
人出が絶え、空き地が目に付くようになった。潮の匂いがし、松林が見え、海岸に近づいていた。
 車は踏切で一時停止をし、越えると停まっていた。
 青浜団地に通じる道であった。
 右手の自動販売機の陰から若い女が現れ、素早く近づき、車の後部席に入り込んだ。ぴったりした黒のワンピースは、臀部とともに体全体の肉感を強調していた。
 「だいぶ待ったな?」
 石川は車を空き地でユー・ターンさせ、元の道に戻していた
 「ひまやけ、アイスクリームを食べよった」
 女は息を弾ませていた。
 「きょうはまーだ美味しい食べ物があるばい」
 石川は言った。
 「何のこと?」
 彼女はとぼけた口調になった。
 わたしは静かにに笑った。
 「この前ねえ、虎猫が道ばたにおったけ、頭を撫でてやったら、なついてきたんよ。抱き上げようとしたけど引っ掻かれたらいかんけ、ダンボール箱に入れて持って帰ったんよ。そしたら、お母さんがなんち言うたと思う?」

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