「遅いですね」
わたしは携帯電話を出して、時間をみた。
「二、三分前に傍を通り過ぎましたよ」
穂高は薄笑いを浮かべた。
わたしは首を捻り、通り過ぎた記憶を思い浮かべようとした。
携帯電話が鳴ったので、耳に当てた。
中村だった。
申し訳なさそうな口調で、用事を思い出したので行けなくなった、穂高にもよろしく言ってくれ、と言って、切った。
「三つ先の席に座り薄いサングラスを掛けて、新聞を読んでいましたよ。約束の時間になると立ち上がり、私達の傍を通りすぎて店を出ていきました。特に私の顔はカメラで写真を撮るようにじっくりと見て行った」
穂高は薄笑いを納めて言った。
「あの体から出る波動はどこかで交わったことがある」
彼はそれ以上のことは話さず、また、世間話に戻っていった。
目の前の中村は喫茶店に来なかった事には触れなかった。
「この前、年金を受給して貰おうと、市役所で住民登録をしたんですよ。そしたら、実家の戸籍が抹消されていました。私は実家で事業に失敗して、借金をし、家族をほったらかして、夜逃げをしてたんですよ」
彼は言ったが、善良そうな顔から、家族を捨てた者にはとうてい見えなかった。
「そしたらこの前、借金取りから支払い催促の通知が来ましてね。二十年も経っているから、時効じゃないでしょうか?」
「時効のはずですよ。今度、催促が来たら、裁判所に訴えてくれ、っていったら良いですよ」
わたしは彼の顔をよく見た。
人間は顔つきからだけでは判断しにくい。顔つきと心の中がまったく逆な者もいる。
こんな穏和な顔で、幼い子供を捨てることが出来るのだろうか?
彼は民家の草むしりや剪定、パチンコ屋やマンションの清掃の仕事、建設機械のリース会社でユンボやダンプの清掃、そんな仕事をこの地でしながら生きてきた、と言った。
「穂高さんはどうしていますか?近頃はサイト運営で名前が出てきているらしいじゃない
銀ラメのハイヒール p27 |
銀ラメのハイヒール |
銀ラメのハイヒール p29 |