「ソウル・トリップを訳すと、(魂の旅)ですね。石川と言う人が携帯電話のサイトで見ていました」
わたしはすぐに閃いた。
「それは私が運営しています。私は何でも屋で、アイデアが浮かぶとビジネスにして試してみます。以前、超音波を使った体外離脱機を作って、ネット上で販売を始めたら当局から目を付けられ、販売中止を受けましてね、危険だという理由でね」
彼は言った。
わたしはサイトや体外離脱に積極的に入り込もうとは思わなかった。穂高に教えられることはたくさんあったが、自分には自分なりの人生観や哲学がある。
部屋の中はごみごみしていて暗く、倉庫といってもおかしくない。食卓のスペースは調味料やインスタント食品や酒瓶や乾物などに占められている。経済恐慌に備えて一ヶ月分の保存食品が壁際に積み上げられている。これは彼一流の合理主義に基づいていて、必要な物はすぐに手が届く位置にあり、非常時に備えての抜かりはない。
「日本はまだ閉鎖的で偏見が強いけど、アメリカではリラックスの方法として認められ、体外離脱協会さえ、出来ているのに」
彼は続けた。
独り住まいで自宅兼ね仕事場であるから、気兼ねは要らない。訪ねてくる者も少ない、というよりネットや電話での情報交換・交流が多い。彼はプログラマーの仕事をしている。コンピューターとの付き合いは三十年の歴史があり、修理・組み立て・指導など自在に出来る。パソコン教室の講師をしたこともあった。
彼はタバコに火を点けて、吸った。
部屋の中は暗く、厚いカーテンの隙間から一条の外光が射していた。紫煙が明るみに浮き上がり、曲線を描きながら立ち迷っていく。
穂高の顔がスポット・ライトを受けている。わたしの目を見てはいるが、その先の宇宙を見ている。
彼は学生時代、革命闘争をしていた。マルクス主義を信じ、機動隊とゲバ棒や火炎瓶で戦った。体中を殴られ、死にかけた。そこで臨死体験をし、体外離脱を経験した。内ゲバの敵に狙われ、箱根に逃げた。温泉宿で茹で卵売りをし、人目から離れた。目の険しい男が現れると、おばさんが教えてくれ、彼は隠れた。山に籠もり、瞑想に耽った。
わたしも学生時代、七十年安保闘争の中に生きたが、人間不信の強い男だったからのめり
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