が彼の主張であり、わたしも感化されていた。

 彼はコンロのガスに火を点けて、コーヒーの用意を始めた。
 いつも飄々とした印象で身も心も軽々としている。口調もさわやかで軽いが、話す内容は日常の次元を越えているものがある。わたしはそこに惹かれ、共感するものが多かった。
「若い頃、ムー、という雑誌に幽体離脱の事が書いてありましたね。それを読んで何日かした後に、眠っている自分から意識が抜け出て自分の寝姿を見降ろしているような、そんな経験をしたことが一度ありました。でもあれは錯覚だったかもしれない」
 わたしは小さな椅子に用心して腰を下ろしたが、肥えた体には小さすぎて収まりにくい。
「魂が波動になって抜け出るんですよ。昔で言えば、生き霊ですね」
 「抜け出て、戻ってこれないこともあるんですか?」
 「それは死です。肉体が死んでいれば魂が戻る場所もないでしょう。ただ、私にとっては一つのリラックスの方法にしかすぎないんですよ。(魂の旅)ですね。現実世界から離れ、純粋世界を旅するんですよ。一度、経験すると病みつきになる、こんな世界があったのかってね」

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