石川の目は輝いた。

 わたしは圧倒されていた、六十歳過ぎて真顔でそんなことを言い、自分の付き合っている女を紹介するという。この男は変わり者なのかよほどの善意の持ち主なのか?彼の知人を知らないので情報が入らず、判断が出来ない。
「そんな良い女やったら男が離すはずがないじゃない」
 わたし言った。
昼間から団地の中を暇そうにうろうろしている女を思い出した。ぶくぶく太り、日焼けした顔、艶のない髪を後ろで束ねている。あちこちの戸口に立って、人のうわさ話をする。
 一度、そんなタイプの女を紹介されて、断ったことがある。
 彼はテーブルの上から携帯電話を取り上げると、ボタンを押した。
「立花さんが来とる。あんたに会いたいち。・・・・、ふん、そうな。ビジネスやけね。そして慈善事業たい。男に尽くしてやんない。あんたはようわかっとる。どんな男?いい男たい。代わろう」
 携帯電話をわたしに渡しかけて、
「今日は団地の清掃活動があるけ、草むしりをせないけんち」
彼は小声で言い、次ぎに携帯電話の先から女が話しかけてきた。
「石川さんがいつもお世話になっています。噂は伺っています。新聞代が貯まってるんじゃないですか?」
少し緊張した声だが、語尾が甘くもたついていた。
「・・そんなことより、いつも貴重な人生経験を聴かせてもらって力づけてもらっています」
「いつか二人だけでお会いしたいですね」
 彼女は言った。
「まあ、機会があればね」
わたしは応えたが、それからは話すことも無かった。
石川に携帯電話を返した。
「あんたも楽しみにしときない」
彼は正面を向いたまま無表情で言った。
女のみずみずしい笑い声が伝わってきた。
電話を切ると、彼は話し始めた。

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