そうかもしれないが、お前よりましや、自己破産なんてみっともない、集金先でなかったらそう言ってたろう。
彼は少し俯いて、昔を思い出している。
「女に貢がせようと思うた事もあったけど、俺にもプライドがあるけな」
三十万円もする背広を着て、クラブに通った日々の事を話し始めた。ベンツに乗り、女を横に座らせて走り回った。女に言い寄られて、女同士の嫉妬、それに妻の嫉妬も加わって困ったと言う。
今は妻に年金を握られている。部屋代・電気代は彼女の口座から落としてもらい、ガスは部屋に引いていない。カセット・コンロで湯を沸かし、お茶を飲み、インスタント・ラーメンをつくる。月に三万円の小遣いを貰い、それを食費と遊興費に当てている。相変わらずパチンコをし、競艇に通っている。新聞代も六ヶ月分が滞っている。その集金のためにわたしは何度も通い、部屋に上げられ、話し相手になり、ついに友達と呼ばれるまで親しくなった。
わたしは新聞代の催促を言い出しかねていた。偶数月の十五日、彼の年金の支給日である。
テレビの画面からアダルト・ビデオの画面が終わった。
彼は立ち上がると、押入の中から写真を三枚、取り出してきた。
彼が女と性交をしている写真と言うが、彼の顔は写っていない。後背位のもので、デジタル・カメラのシャッターを自分で押したという。女の白い尻が横向きで大写しになって闇の中から浮き上がっている。二枚目は女陰そのもの。三枚目はフエラチオのシーンで目を閉じた女の横顔。
三度も見せられると感慨はない。
次に、小型テープ・レコーダーを取り出し、スイッチを入れた。
絶頂に達する女の叫びが部屋の中に響いた。
三度目に聴かされるものだが、凄まじさは確かだった。野蛮といおうか、動物そのものの叫びであった。張りのある若い女の声―。
いつものように絶叫の部分だけを再現すると、彼は無言で消した。
四畳半一間の空気を切り裂いた声は波動を残し、女の生気を籠もらせた。
「あんたなあ、ボボをしてスカッせんな!頭の中が真っ白になるばい。男は女の体の中に射精して初めて男になるんたい。パチンコやら競艇なんかよりこれが一番たい。俺が紹介しちゃるち言いよろうが」
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