白いレンガが線の役割をして駐車位置を決めていた。わたしは目前から二番目の区画に惹きつけられていた。意識が寄っていった。

・・そこで何かが起こった。いや、起こる予定だったのか。
 記憶はなかったので、予感というべきだろう。記憶を喪失するほど老いてはいない。

第二章

「あんた、奥さんとはうまくいきよるんな?」
石川は大仰に言った。
壁の柱に背中をもたせ、坐っている。左手の肘を立てた脚の踝の上にのせて、垂らしている。一日の大半をこの姿勢で過ごし、テレビを見、携帯電話をかけ、タバコを吸う。暇すぎてで死にそうだから来てください、お願いします、と電話をかけてくる。
「近頃は近寄りにくくなって」
わたしは言った。
家の中で一緒に食事はするし、会話もするが、体が触れ合おうとすると意識的に彼女の方から離れるのがわかる。わたしのイビキや寝言がうるさいと言うことで寝室は別である。
「それはあんたが悪い!」
彼は声を張り上げた。
わたしは唖然となり、返す言葉がない。
「女の手なずけかたを知らん。女は子供と思わないけん。小さな子供と思うて、いつも褒めてやり、優しい言葉をかけてやらな。そんなことしよるな?褒めてやったことがあるなあ?」
石川は語尾を揚げながら、わたしを見据えた。
わたしは答えられなかった。
彼はギャンブルと女遊びで一千万円の借金をし、自己破産をしている。妻と偽装離婚をし、安アパートに住み、長い時間を潰す。午後六時から九時までは本宅に帰る。風呂に入り、妻と食事をする。それくらいなら離婚の継続として認められるから大丈夫だと、弁護士の助言を受けている。
「女は正面から見据えたらいかん。いつもこっちが屈むごとして、靴をはかせ、服を着せてやるような気持ちにならなあ。あんたは要領の悪い男や」

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