時々茶を啜り、タバコを吸い、任務の為の短い言葉を交え合った。

波の動きがのんびりと伝わり、闇の中に時間は消えていた。


エンジンが唸り、船長は操舵室に入っていた。

船体は波を切り、進みはじめた。

話す事も絶え、ロウソクの炎と船の振動だけが残った。

男達は炎を見つめていた。

「日本はなんでこんな国になってしまったんやろう?」

船長は言った。

「一神教、キリスト教文明、一元的思考、そして、人間中心主義が元凶なのだ。それに支配されてしまった」

ダミーは呟いた。

「人間中心主義は地球破壊なのだ」

わたしは言った。

「地球破壊は人間破壊なのだ」

船長は言った。

「人類が生き残るためには人類が減って貰わねばならない」

わたしは言った。

香織の声が聞こえてきた。

(発作の回数が減ってきたんよ。医者はもう治ると言いよる。長い間、親切にしてくれて、ありがとう。睡眠薬を飲んでいるので、このまま眠ます)

あの夜の、電話だった。

丁寧な言葉、睡眠薬に麻痺した無機的な声音、人口音声に近い。

無意識に責められて電話のボタンを押し、最後の言葉を呟いたのだろう。

(・・良かった。・・それだけが気がかりやった。・・気を付けて頑張ってね)

わたしも最後の言葉だった。

 ロウソクの炎は真っ直ぐに立って、最後の背伸びをしていた。

 船は速度を落とし、波の力が伝わってきた。

 穂高は傍のリュックサックに目を向けた。生活用具や重要書類や本などびっしりと詰め込まれ、三十キロはあるだろう。


 

前
銀ラメのハイヒール p115
カテゴリートップ
銀ラメのハイヒール
次
銀ラメのハイヒール p117