かんできましてね。バイクで枯野を駆けめぐってきた気分になりましてね」
室内とはこんなに心地よく静かなのかと感じ入りながらわたしは応えた。
「なるほど」
彼は向き合って坐り、わたしの目を見た。
その静かな直向きさは彼に似ていて、穂高に心酔しきっている表情でもある。替え玉である未来に何が待ちかまえているかも覚悟している。いや、穂高を生かし、自分が犠牲になることが快感、人生の至高の目的なのだ。
タバコを指の間にはさみ、じっと相手の目を見詰め、意識を据えた表情、穏やかに相手を受け止める波動、その一体感は暗闇の映画館でヒーローの活動に惚れきった観客の一人でもある。
ネット共和国日本人、三十万人の中から、体つき、声音、性格などあらゆる領域で最も穂高に似ていると言うことと最も彼に心酔していることで選ばれていた。
彼は穂高より十は若かった。外出の際は帽子をかぶり、薄いサングラスをかけて、公安警察にダミーであることを見破られないようにカモフラージュした。一ヶ月間、それは穂高の北朝鮮亡命の準備期間だが、見破られてはいけなかった。北朝鮮が日本を核攻撃する日、私達は山中の穴の中に隠れていて、一斉に武装蜂起することになっていた。日本は大混乱に陥り、全ての機能が停止しているに違いない。
それからの会話は囁き声で、盗聴を防止していた。
武装蜂起後、一時的に独裁政権をつくる。誤った人間教、人権教に毒された社会を自然の法則に従ったものに変革していく。が、それが成し遂げられたとしても民主化に戻していけば、また衆愚政治に返り、国民の機嫌を取って票と金を取る民主主義・環境破壊に逆行するのではないか、と言う内容であった。
民主主義国家の中で産まれ、いつまでもその政治形態が最高のものだと信じ込まされ、その幻想から抜け出せない我々に問題がある。それに変わる政治形態はなんだろうか?
わたしは穂高の側近の一人として、彼が歴史的展開を期待していない事がわかった。
彼は人間の役割は終わったと考えている。なぜなら、人間は地球の無法者に成り下がり、後戻りも出来ない。一度滅亡するか、変異して別の種族にならなければならない。猿から人間が出現したように。あるいは現在の人間に宇宙の意志をプログラミングされた人工知能を埋め込むかしなければ期待は出来ない。人間以外の生物が環境破壊をせずに生きているのは宇宙の意志、つまり本能に忠実に生きているからだ。彼等の方が高等生物であり、
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