た、と言った女だから。その言葉は愛想からでは無かったと信じている。恋愛感情の次元ではない。あの一時を共に過ごした者として)

はみ出した手に布団を掛けようとすると、携帯電話が隠れていた。画像から竜樹の顔が現れた。
(竜樹様、穂高さん、裏切り続けたアナタに言うのもなんやけど、この病気は治るんですか?教えてください。あなたとは純粋世界でしか会ったことはない。本当の姿を見せてください)
彼女はつぶやき、そのうち寝息を立て始めていた。
(積もり積もったストレスが発作になって爆発している。絡み合った愛欲の糸をほどいていくのは大変だろう。彼女の体はもう男を受けつけなくなっている)
穂高の言葉がよみがえった。

香織はわたしの勧めもあって大学病院の精神科に転院した。
担当は四十過ぎの女医だった。彼女はは時間をかけて、香織の過去の扉を開いていった。症状の原因になりそうな事例を焙り出していった。―小学校にはいる前に家が丸焼けになり、ショックを受けたこと。母親が再婚し、二人の母の間を行ったり来たりしていたこと。直近では多くの男性との関係があったこと。
「このケースはストレスによる発作が考えられます。あるいは幼い頃にてんかんの素因があり、今回の事故が引き金になった可能性もあります。私は研究論文で(動物の擬死と人の失神)というのを発表しています。擬死というのはある意味で自己防衛なのです。それとてんかんの繋がりを探っているのです。・・心理的要因があるようなのでしばらく男性関係を控えるように彼女に指導しています」
女医はわたしが男性関係の一人であったことを知っていたのだろうか?彼女が好奇心を控えめな視線で押さえているのがわかった。
「彼女は自殺をしたいと言っています」
女医は付け加えた。
わたしは香織を見舞う予定だったが、病院の受付に手土産を預けて、背中を向けた。
わたしが彼女の前に姿を現すことすら、悪い影響を与えていることがわかった。
十日に一度は彼女に電話を入れて様態を尋ねたりしたが、彼女の方から電話がかかってくることは無くなった。一度電話を入れると、留守電に変わった。(元気にしてますか?)と
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