第十七章


 茶色い封書が、郵便で届いた。
差出人の欄には個人名がゴム印で打たれていた。知らない名前だった。家庭裁判所をそこに表記しなかったのは人目への配慮があったのだ。封を切ってみると、(調停期日通知書)と書かれ、申立人はツマで、相手方はわたしになっていた。(正当な理由なく出頭しないときは、家事審判法第二十七条により科料に処せられることがあります)と、書かれている。時間は午後一時五十分に指定されている。
少し考え込んだが、次ぎに晴れやかな気分になった。司法の助けにより、ツマとの関係に終止符が打たれるかも知れない。わたしは貯金の残高を思い返し、慰謝料の相場に相当する額が残っている事に安堵した。
ツマとの関係は事務的な状況が続いていた。わたしは月々の生活費を食卓のテーブルの上に置き、彼女は洗濯、茶碗洗い、わたしの部屋以外の掃除、などをこなし、暗黙のうちに役割分担が決まっていた。わたしの部屋は屋敷の端にあり、ツマの部屋との間の部屋は物置になっていて、お互いのプライバシーを守ってくれていた。
家裁には三十分前に着いて、受付を通したり、部屋の確認をしたりした。控え室を探しているとツマの姿を発見したので、別の控え室にわたしは入り、時間を待った。
調停委員は二人で、初老の男と女だった。少し遅れてツマが入り、わたしの椅子の隣に坐った。わたし達は夫婦だったのだな、とおかしく感心した。わたし、ツマはテーブルを間にして、調停委員と向き合った。(お話はざっくばらんに伺いますが、話し合いの上での合意・決定は法的効力を持っていることを伝えておきます)と、男の調停委員は言った。
ツマは事前にわたしの行状を充分に申し立てていたのだから、彼女の意志と要求を述べるべきだった。けれども、香織との関係を当人同士しか知らないことまで長ったらしく話しはじめ、二時間も費やした。興信所に調査をさせ、わたしの日記も丹念に読んでいたのだ。彼女の要求は(香織と別れること)(生活費の支給額を一、五倍にすること)であった。 わたしはそんなことが要求だったのかと気落ちしながら、簡単な方から、応えた。彼女がいつも付けている家計簿をわたしに示して、一、五倍にすることの合理的理由を説明出来れば、応じる。香織との関係は終わっていて、見舞いに通っているのはわたしの運転で事故に合い、その償いの意味があることを伝えた。(そんな言い訳をして、一年間も関係を続けたじゃないか)彼女は興奮した。(すでに家庭内離婚の状況だったのだから、責められる筋
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