「ともかくあなたに忠告をしておきます」

「それだけですか?」
わたしは確認して、部屋を出た。

香織の母親の部屋を訪ねた。
暗い居間で、神棚のロウソクの明かりが彼女の後ろ姿を浮き上がらせていた。
わたしはその背後に正座をして坐った。
「私はあの娘に期待を掛けすぎました。小さい頃からピアノを習わせたり、外人を家庭教師にして英語を習わせたりして。それが重荷になって、あの娘は私の人生の裏側を辿るようになった。だから私は説教じみたことを言わなくなったし、言っても効果は無いと諦めていました。なるようにしかならない、ただ、あの病気が治ってくれれば良いのですが」
彼女は落ち着いていた。
「申し訳ございませんでした。私にも責任があります。出来るだけのことはさせていただきます」
わたしは両手をつき、頭を下げた。
彼女は神棚に向かったまま、黙っていた。
「あなたの車の色は白なのですか?
「黒ですが、車に乗る時に彼女には白に見えたのです」 
「白に見えたのに乗ったのですね?」
「そうです」
わたしは、彼女の背中を見詰めていた。
「私の忠告を忘れていたのでしょうが、白の車を避けたとしても事故にはあったのです」
彼女は言った。
彼女は姿勢を変え、わたしと対座した。
「起こるべくして起こるのです。あなたには災難は起こらない。いつもかすめ通るだけ」
「香織さんの病気は治るでしょうか?」
「治ってもらわなければ困ります。いろんな男と付き合いすぎて、本人は満足しているつもりでも、歪みが積もっていたのです。その弱みに悪い霊が取り憑きかけていたのです。そこに事故のショックで乗り移ったのです」
「取り除くには?」

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