車のエンジンと排気ガス、人の熱気でトンネルの中は興奮状態だった。

車の改造マフラーから、凶暴なエンジン音が何度も吹かされた。トンネルで割れるように反響した。攻撃したくてウズウズしている。
車の列は少しずつ進み始めた。
 わたしは安全のため、車が進み終えるのを待った。
 トンネルのコンクリート壁に目を向けた。
 わたしの横向きの体がヘッド・ライトを浴び、映し出されていた。いくつものライトを浴びて重なり合っていた。濃いと薄いと、実物大からさらに大きくなり、また次第に小さくなって消えた。また、大きく現れ、重なり会いながら小さくなっていき、また現れた。
 それらが何十台もの車の進行とともに、何重にも重なって動いている。
 向こうから、歩いてくる男の影絵が天井に映し出されていた。片手に畳んだダンボールらしき物を持ち、もう一方に手提げ袋を持ち、左右に体を揺らしながら影絵を膨らませながらわたしに向かって歩いてくる。
 わたしは目を凝らして見つめた。
 が、男の姿は消えていた。
見回したが天井にもなかった。
 車の列が進みはじめた。
 わたしはバイクのアクセルをひねって発進すると、ウインカーを出して、車の間に入り込んだ。車の列とともにトンネルを抜け出ようとしていた。
まだまだ多くの人間に出会わねばならない。
 多くの自分自身と出会うために。
 
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