「前に住んどった土地を三千万円で売ったけね」
彼はゆったり構えていた。
金の請求を匂わすだけで暴追法に引っかかるが、金が目的ではないと断言したことはもっと厄介な狙いを予感させた。
「この男を首にすることにしたやろな?」
その言葉にわたしはゾットした。
「それは会社の判断です」
副部長は冷静な口調で言った。
「この男の家の住所と電話番号を教えない」
「それは教えられません」
副部長は同じく冷静に言った。
管理職としてトラブル対応には十分慣れていた。
「何度も言うけど、俺はこいつにプライドを傷つけられたんよ。どうやったら癒されるか、考えてきたか!」
声を張り上げ、睨み付けた。
そこで沈黙が訪れた。
「あー、忘れとった。こんなところに置いとったらいかんばい」
男の口調にわざとらしさが混じっていたこともあって、三人は目を上げた。
男は長い物を、左手で真横に握り、三人の前にゆっくりと晒した。
新聞紙に胴体をグルグル巻きにされた日本刀だった。
わたしは驚いたが、演技臭さを感じ取った。
これも金を取り立てるときの小道具であろう。
しかし、そこまでやる男の本当の狙いは何なのだろうか?
(KTSと本当に戦うつもりだろうか?)
「おれはプライドを傷つけられたんよ。どんなふうに癒してくれるんですか?教えてください」
口調が弱弱しくなった。
「教えてください」
もう一度言った。
「お願いします」
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