彼は言って、並んだ私たちの頭を睨んだ。
(そうやなかったんか?)
(そんなつもりはなかったんですが、そのように受け取られたんでしたら、どうもすいません。お詫びします)
わたしは頭を下げたまま言った。
「ふん。悪げのない顔やな。当たり前ちゅう顔やないか。俺は刑務所に入とった時、自分の身を守るため、法律の勉強をした。金貸しもしとるけ、いろんなことを知っとかないけん。そのおれに、この男は、・法・条を知らんのか?と脅しつけてきたんや。俺はびっくりしたし、怖くなってきた。天下のKTSがこんなやり方をするとは思わんかった!」
男はあっけにとられた顔をした。
わたしにとって法律を持ち出すことは当然のことであった。手っ取り早いし、根拠を示すことが出来る。
・法・条の条文は持ち出さないように、と指導はされていたが、その条文が視聴料制度の基本になっていることは間違いないし、脅迫をした覚えもない。相手がそのように受け取ったというのなら、仕方がない。
わたしは自分の姿が見えていなかった。
まったく、見えていなかった。
・法・条の条文を契約拒否者の玄関先で、大声で読み上げたこともあった。そこの主婦が幼子を連れて、近所の主婦と立ち話をしている時、彼女がわたしに契約の拒否を告げたからだった。主婦は驚き、女の幼子はわたしの声に驚いて、泣き始めた。主人が営業部に苦情の電話を入れ、わたしは営業副部長に連れられて謝罪に行ったが、悪いことをしたという意識はなかった。
わたしは集金・契約業務において抜群の成績を上げていたが、抜群のトラブル・苦情を招き、影でキチガイと噂されていた。(おまえは権威を傘に切る男だ)と学生時代に友人に言われたこともあった。
相手を理論で屈服させることに快感を覚えていたし、その対価が金になって帰ってくることは趣味と実益を兼ねたものだった。わたしは狩猟民族みたいもので、バイクつまり馬にまたがって金を取りまくった。路上で井戸端会議をしている主婦を見、その中に契約拒否者いると、バイクをいきなり横付けして「奥さん、集金に来ました!千三百九十五円です」といきなり叫んだ。彼女はびっくりし、集まっている主婦たちの手前もあって払い、
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