丸っこい御影石を三個、懐中電灯の明かりが照らし出した。ワンカップの酒ビンが二つ並び、中で枯れた花が消えかけている。
すると、右手に明るみが現れた。
焚き火だった。
先ほどの焚き火のようだったが、違うようでもあった。
人の姿はない。
おれは元の位置に戻ったのか?道を戻って行ったわけではないから、・・まさか焚き火の周りを一回りしたのではないか?
それほどの時間は経っていない。
しかし、時間の感覚まで狂い始めたのではないか?携帯電話を取り出して時間を見ると、五分しか経っていない。
わたしは立ちすくんだ。
火の勢いは先ほどと同じく立ち上り、「ボン、ボン」大きく撥ね挑んできた。おかしな出来事であった。焚き火から離れて行っているのに離れていないのであった。
じっとしているのが怖くて、歩き続けた。
咽の渇きも空腹も意識にのぼらなかった。水筒は空であった。タバコも吸い尽くしていだ。疲れと不安にに陥ったのか、頭の中がぼんやりとしかけていた。
どこまで降り続けても平地に出なかった。
低い唸りが間を置いて伝わってきた。
車のエンジン音に違いなかった。
道路に近づいているのだ。
耳を張り付かせた。
だが、いつのまにか聞こえなくなった。
磁場の狂った地域があることをテレビで観たことを思い出した。下り坂なのに空き缶が上っていき、上り坂なのに空き缶が降りてくる。そんな土地に踏み込めば降りていることは上っていることであり、上っていることは降りていることである。
いや、しかし、とわたしは思索の世界にのめり込み、恐怖から退避しようとしていた。
わたしの思索癖は中学時代から始まり、変わり者、偏屈と学友からからかわれた。おかげでサラリーマン生活はどこの職場でも上司とぶつかり、辞めざるを得ず、集金業になん
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