ダミーの顔が血だらけになっている。それはわたしの顔でもある。
(死は心地良いのだ。苦痛だなんて誰が言った?)
船長と穂高が這い寄ってきた。
四人が最後の顔を見合わせた。
「船が沈められる。あの世、いや、この世でまた会うことになっている。いや、平行宇宙のどこかですでに会っている。そこからまた、物語は始まる」
穂高は言い、笑った。
速射音は止んだ。
重い音がぶつかり、大きく揺れた。
軋みが大きな音に変わった。傾き始めた。
わたしは水を感じた・・・。
冷たい感覚もなかった。
温んだ夏の海、波の面を、私は漂っている。水中メガメをかぶり、シュノーケルを口に銜えている。掠れた呼吸が聞こえてくる。頼りなげだが、自分の命の証明である。
力を抜き、波の揺れに身を任せている。
目を凝らすと、砂地に太陽の光が届き、一面が明るんでいる。波が格子状に拡大され、その縁取りが光っている。波の揺れと照応し、伸びたり縮んだり、そして歪みながら揺れている。
リズミカルな揺れだ。
わたしの体もそれに合わせて揺れ、胎内の胎児のように無心で漂っている。
海底の面を眺めながら、波の動きと一体になり、そこが何処なのかも忘れている。
自分が何なのかもわからない。
砂面に何かがが惹きつけられた。
靴だった。
よく見ると、銀ラメのハイヒール。
かかとを砂に埋めている。青を混えピンク色に煌めきながら、つま先を波の動きに合わせながら、いつまでも振れている・・。
(あなたと私はまだ出会ったばかり。もっと良いことがあっても良い)
カオリは呟いた。
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銀ラメのハイヒール p118 |
銀ラメのハイヒール |
