「どっかで聞いた声と思いよったら、KTSのオイちゃんやないね」
奥の方から声が出てきた。
崎本婆さんだった。
「今日は娘達がお不動様参りに連れて行ってくれたとよ、そんで帰りに寄ったとこですたい。まあ、お茶でも飲んでいかんね。人はどこで会うかわからんね」
腰を下ろして、なつかしげな眼差しを向けた。
硬いわたしの表情が和らいでいった。
「おいちゃん、あんた、何かあったね?」
彼女は優しい眼差しを向けた。
わたしはラーメン屋での出来事を話した。
「あんた、悪かもんに憑かれたね。これはなかなか離れんばい。用心しなっせい。わたしもお不動様に頼んどいてやる」
彼女は言い、表情を強めた。
「おいちゃん、あんたは良い人やけどひたむき過ぎる。それが命取りになる。あんたは大蛇の目を見てしもうた」
しわがれた声がしみていった。
その時、彼女は(大蛇)という言葉を使っていた。
わたしが大蛇の探検に出かけることを予知していたのだろうか。
「どうすれば良いんですか?」
「あんたは毎日何十人の人と出会いよる。そこで良いにつけ悪いにつけ、深い付き合いができたりするやろうが、印象に残る人はあんた自身の一部なんよ。いつのことになるかしか知らんが、あんたが自分の中のすべての人に出会った時、あんたは透明な光になる。それが仏たい。透明な光、ち言うたけど、ほらプリズムちいうのがあるやろう?」
「はい。知っています。小学校の授業で、光を通して見たらきれいでした」
「七色に分かれたことも知っとるな?」
「はい」
「七色を集めると無色の光になるんたい」
「それも知っています。七色の絵の具を集めると黒になることも」
「嬉しい、楽しい、悲しい、怖い、可愛い、優しい、淋しい、いろんなものも集まると結局は透明な光になるんとよ。そして、透明な光からいろんな色が分かれるんよ」
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