ダンボール箱が気にかかった。

男は木の幹を拾い、わたしに手渡し、座るように暗に示した。
男は安物の防寒防水コートで体を包み、横顔はフードの中に隠れている。
「流れ流れてこの地にやってきました。はるかな時を越えてこの地にやってきました。今はその洞穴の中で生活をしております。時には外に出かけ、当たり屋になって飯代を稼いでおります。どんな車とぶつかるか、誰に傷つけられ誰に殺されるか・・・・、それはわからない。―あんたは俺であり、俺はあんたである」
彼はテレビのナレーターみたいに節を付けて言った。
(流れ流れて)なんてどこかで耳にした言葉だ。
わたしは黙って聞いていた。
どんな人間であれ人に会えた事は嬉しい。
洞穴は人の高さほどもあり、坑道かもしれなかった。大蛇が棲んでいたという話、当たり屋という言葉、折り畳まれたダンボール箱はあのホームレスを思い出させた。
「お邪魔します」
わたしは腰を下ろした。
そこにたどり着いた経緯を話していった。
男は黙って聞いていた。
「大蛇な?ハハハハハー」
男は大笑いをした。
「俺がその大蛇かもしれんばい。長い尻尾が生えとらせんね」
男は自分の背後を振り向いて示した。
わたしの目にそれは見えなかったと同時に、フードの中の見えるべき顔がなかった。
「俺があんたをここまで呼んだんたい」
男はぶっきらぼうにふざけ口調で言った。
「わたしを呼んだ?それはまたどうしてですか?」
からかわれた気になった。
「俺の友達やけさ」
「友達?」
「あんたも吸い寄せられて来たとよ」
「まさか?」
 
前
城山峠 p17
カテゴリートップ
城山峠
次
城山峠 p19