「偶然の必然、たい。まあ、良いたい。そのうちわかる。まあ、ゆっくりしていきない。あんたはここから抜け出れんのやけ」

男は言って、燃え尽きかけた孟宗竹を火の中に次々と投げ入れた。
(抜け出れん?)
わたしはその理由を訊くのが怖く、口をつぐんだ。
こんな経験を仕事でしたことがあった。
焚き火の中の竹が時々鉄砲を打つように、弾けた。
闇を打ち破り、煙を上げた。
抜け出れない、それは本当かもしれない。
監禁されたわけでもないのに出口を失った俺には行く先がない。
焚き火の炎は体をくねらせていた。
自分などおかまいなしに燃えつづけていた。
火や自然が自分や人間のためにあるなんて馬鹿げた考えをもっていた時期があった。嘘ばかりを教えられてきたことがわかった。
「ここには昔、炭坑住宅があってな。燃えて無くなってしもうたけんど、瓦の欠片なんかが地面から出てきよる」
「ここから国道は近いのですか?」
「ほら、あそこに車のヘッド・ライトが見えるやろう?」
男の指さす方に、明かりが見え隠れしていた。
音もなくヘッドライトが流れていく。
先ほど感じたエンジン音はあれだったのか。
もう遠い世界のことになってしまった。
「三十分も歩けば国道にでるし、そこからタクシーも拾える。けど、その道を見つけて辿ることはあんたには無理や」
彼は焚火にかけていたヤカンの湯をコップに注ぎ、酒を加えると、わたしに差し出した。
焼酎であった。
「火というもんは本当に不思議やなあ。一晩中、見つめよっても見あきん。あんたなあ、家が丸焼けになるところ,見たことあるな?」
男は顔を上げた。
「いただきます」
 
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