俳優みたいな男は薄笑いを浮かべた。

立ち上がって狭い店内を歩き回り始めた。
「・・実はこの人はなあ、昔、街宣カーに乗って活躍した人なんよ」
男は言い、その言葉に俳優みたいな男はニッコリ笑った。
その笑い方は内容がなく、空虚な印象があったので逆に凄みを感じさせた。髪は植毛じみていた。目は二重まぶたに整形されていて、全体的に人形みたいだった。
 「俺はKTSの視聴料は払いよる。番組の終わりに日の丸、君が代、を流すけな」
 俳優みたいな男は言った。
 その言葉は右翼団体を匂わせた。
 (日の丸、君が代を流すから払わない)
 というのは左翼が多かった。
「わたしはねえ、弱い者を虐める人間が大嫌いでねえ、そのために戦ってきました。会社の経営者、政治家、役人、地域ゴロ、暴力団、など相手にしてきました。」
男はわたしの目を見つめた。
わたしは不思議な気持ちになった。
ある時暴力団事務所のあるアパートの部屋の前を通りかかったことがあった。ドアの上の端に、(暴力追放)と書いたステッカーが貼ってあったのだ。
世間の人は暴力団だと片づけているが、彼らは自分たちをそのようには捕らえていない。かれらにも論理があり、世間の論理とかれらの論理は対象形をなして重なり合っているにすぎない。常識人にとってはいやな所である刑務所が彼らにとっては別荘であるように。
「この人の代わりに契約書を書いて契約を成立させたんね。私文書偽造、詐欺行為だと弁護士は言っている。KTSはそんなことをしよるんね?」
俳優みたいな男は優しい口調だった。
「俺たちは金貸もし、取立てもするけんど、電波を一方的に流して金を取るようなことはせんばい」
男は口を入れた。
「あんたたちのやり方は暴力団より質が悪い」
付け加えた。
私たちは言葉を失っていた。
「そしたらどうしたらいいんね、部長さん。俺たちは新聞社にもテレビ局にも週刊誌に
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