続けた。

 「申し訳ございません。お許しください」
 副部長は言った。
 わたしも続いて、言った。
「もう一度チャンスをお与えください!もう一度チャンスをお与えください!」
 副部長は大声で、連呼を始めた。
係長、わたしと波動が伝わり、三人は大声で連呼した。
 それは助けを求める叫びであり、祈りに近いエネルギーだった。
連呼を続けるうちに、このパワーが相手を打ち負かす戦法でもあることがわかってきた。
 わたしのエネルギーは男の攻撃の反作用になって沸いていた。
こうなるとどちらが攻撃されているのかわからないし、攻撃も防御も同じ次元であった。
 三人は椅子から離れ、床の上に土下座をしていた。頭をコンクリートの床に擦りつけた。
 同じ言葉で何度も叫び、祈りが続いた。
 ラーメン屋のドアが開けられたのにわたしたちは気づかなかった。
 背後に初老の男が立っていた。
「まーだあ、店は開かんとな?ラーメンを食いたいとに」
彼はニッコリ笑っていた。
「何ごとな?」
おっとりしていた。
豊かで黒い髪がきれいにすかれ、きちんと分けられて光沢を放っている。濃い眉に輝く目、整った顔立ち、まるで俳優である。セピア色のしゃれたスーツを着ている。
「この前のあの銀行の利益供与の件、ほら、あれたい、・・何とか話しがつきそうばい。あんなことしてから、宗教団体もいやらしな?」
彼は親しげに男に言い、そばの椅子に腰を下ろした。
「どうしたんな?」
と男に聞いて来た。
男は答えなかった。
後で考え直すと、事前の打ち合わせが出来ていたのだ。
だから男は次のように言った。
「俺たちは今、偶然に会ったんやけな」
 
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